キーワードを読む③「根源的危機の時代」の財政

編集部

今回、開催した公開講座での吉弘憲介教授の講演のポイントは、財政による資源配分を既得権益と否定して、できるだけ広範囲に均等に配り直すことで大阪維新は支持を調達した。これは「財政ポピュリズム」と名付けられる手法だが、この手法は財政そのものの解体である、ということだった。では、そもそも「財政」とは何か。それを考えるのに格好の本が出版された。神野直彦『財政と民主主義』(岩波新書2024)である。

神野さんが繰り返し強調するのは、人間の生命と生活を守るために財政は存在するということだ。人間を生産の「手段」とする市場経済下にあって、人間を「目的」とする社会実現のために財政は生み出された。その意味では財政もまた制度資本としての社会的共通資本=コモンなのである。この財政観は原点であり、きわめて現代的テーマでもある。

神野さんは現在を「根源的危機の時代」と規定する。文字通り人類が絶滅しかねない危機という意味である。人類は地球環境の危機の時代に戦争という最悪の方向に舵を切ってしまった。一方、ポスト工業社会としての知識社会の到来は、育児や高齢者ケアなど対人社会サービスの拡充を急務としたのに、日本政府は自己責任論でこれをなおざりにしてきた。コロナ禍はエッセンシャルワーカーの重要性とその劣悪な労働環境、深刻な人材不足を招いた新自由主義による失政を白日の下にさらしたといえる。

では、財政になにができるのか。本書は第4章で税・社会保障の転換策を詳しくに提言している。しかし、この提言も現在日本の為政者には馬耳東風なのかもしれない。なら、私たちになにができるか。神野さんが示すキーワードは「民主主義」だ。政府に異を唱えることばかりが民主主義ではない。地域社会の生活機能の再生に住民が主権者として取り組むことを神野さんは提唱する。そこでは基礎自治体の財政の役割が重要となる。迂遠に見えて本質的な提言である。鬱屈としていた心が洗われ、未来に向けて元気が出る本だ。