韓国政治の行方②“3年は長すぎる!”―韓国国会議員総選挙の行方

PLP会館大阪地方自治研究センター研究員 尹 誠國

4月10日は、韓国の国会議員総選挙の投票日である。韓国の総選挙について、日本のマスコミでは、「与党有利」と伝える報道が多いが、細かいところを見てみると、一概にそうとは言い切れない部分もあるようである。以下、最近の韓国の選挙情勢を見てみよう。

“3年は長すぎる!”

これは、韓国のある政党が掲げているスローガンである。

4月10日は、韓国の国会議員総選挙の投票日である。韓国国会は一院制で、国会議員定数は300人である。そして、大統領制を採用している韓国の与党と野党の意味は、議員内閣制を採用している日本とは異なる。日本では衆議院で最も多くの議席を持つ政党が与党であるが、韓国では国会の議席配分とは関係なく、現職の大統領につながりのある政党が与党になる。現在の韓国はいわゆる少数与党である。韓国の国会議員の任期は4年で、解散はない。そのため、4年ごとに必ず総選挙が行われる。アメリカの中間選挙同様、必ず大統領任期の途中で執り行われ、大統領の中間評価と言う意味を持っている。

尹錫悦大統領は候補時代から、“勉強していない”、“無能”、“品がない”などと批判されていた。例えば、手のひらに王の字を書いたり、遊説のために移動中の列車の中で土足のまま前の座席に脚を伸ばすなどの行動が批判の的となったが、大統領選挙では僅差で勝ち、尹政権は2022年5月10日、発足した。しかしながら、政権発足以来、候補時代と似たような様々な失態を繰り返している。外交の舞台における度重なる失態、外交政策の失敗だけではなく、2030年の釜山エキスポの誘致失敗、経済の低迷等、枚挙にいとまがない。そのため、野党からは“尹政権は無能、無智、無知な検察独裁政権”罵られている。このような状況の下、激しい選挙戦が繰り広げられている。

今回の選挙は、尹政権の将来だけではなく、尹大統領個人、ひいては、様々な疑惑がもたれている尹大統領一家の将来を左右するかもしれない。また、韓国政治における進歩系政党の位置づけをより一層明確にするためにも非常に大きな意味を持つと言えよう。

今回の総選挙だけではなく、今後の韓国政治に一石を投じる可能性があるのが、文政権時代に法務大臣を歴任した曺國氏の動きである。彼は、祖国革新党を結党し、“3年は長すぎる!”、 “検察独裁政権の早期打倒”等のスローガンを掲げ、有権者にアピールしている。

曺國氏は法務大臣在任中、現在の尹大統領をはじめとした当時の検察首脳部と対立していた。韓国の検察は起訴権限だけではなく、捜査権限も持っていて、他の国では類を見ない大きな権力を振るっている。曺國氏は検察制度改革によって、捜査権限は警察だけに与えようとしていた。

最近の世論調査では、祖国革新党の比例代表の支持率は15%程度である。2月の結党宣言から一か月足らずと言うことを考慮すると驚異的と言っても決して過言ではない。まさに、今回の選挙の台風の目であり、選挙の行方を大きく左右するかもしれない状況になりつつある。祖国革新党が今回の選挙で勢力を伸ばすことができれば、検察制度改革に再び乗り出すのは必至である。また、曺國氏の普段からの主張通り、2024年中に大統領の任期を短縮するための憲法改正、12月の大統領選挙を経て、2025年には尹大統領を下野に追い込み、新しい大統領の誕生と言うシナリオも決して不可能ではない。現行のままでは尹大統領の任期は2027年5月10日までである。

4月10日の投票日まで一か月を切った。政治は可能性の芸術であると言われている。可能性のまま終わるのか、祖国革新党の革新が実現するのか、それは現時点では誰にも分からないが、真の意味において民が主になるような韓国政治を期待したい。